俺がとり憑かれていた時の話をテキトーにする:3

この<顔が黒く見える>という現象は私にだけそう見えるもので、他の人にはわからなかった。
そして、私がAさんを嫌う理由も、誰にも明かせなかった。
もし他の誰かに相談できたとしても、Aさんは誰からも認められているできた女性である。
私に理がないことは明白だ。
私の心は、毎日、解決法のない問題と戦っていた。
自分の中だけで葛藤を処理せねばならなかった私は、この頃の精神状態を最悪のものだと記憶している。
それでも表面上は普通に対応しており、まだ若かった私は、これで社会人としての処世術を身につけていったのではないかと思う。

そんなある日、地下鉄への帰り道を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
Aさんだった。

「島村さん、☓☓駅?」
「はい」
「じゃあ同じだね。一緒に帰ってもいいかな?」

もちろん、断る理由などない。

「島村さんは彼氏いる?」
「いいえ」
「そう。あのねえ、Bさんから聞いているかもしれないけど、わたし、婚約したの」
「おめでとうございます」
「式は3ヶ月後。あの人気のある式場が予約できたんだよ」

幸せそうなAさんの笑顔が続いた地下鉄までの道のりだったが、私にとっては拷問に近かった。
話のほとんどはあらかじめBさんから聞いていたことばかりだった。
Aさんの彼氏の話と婚約のこと、結婚式の日取りなど、明るい未来へ向けての彼女の語り口は今でも忘れられない。

それからまたしばらく経った頃だった。
仕事を終え、女子更衣室に入った私は、いきなりBさんの喫煙姿を目にする。
隣にはHさんが、同じように足を組んで腰掛け、煙草をふかしていた。
喫煙室でもない場所で、二人は灰皿を持って静かに煙草をふかしていた。

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